リバースエンジニアリングの活用事例と今後の展望

ものづくりの基本は、設計図面をもとに加工を行い、部品を製造することです。
しかし、時には図面が存在しない場合があります。図面が存在しない場合は、すでにある製品を測定・分解・解析し、設計情報を再構築する必要がありますが、この手法を「リバースエンジニアリング」と呼びます。
今回は「リバースエンジニアリング」について紹介します。
Contents
リバースエンジニアリングとは
「リバースエンジニアリング」は、近年製品開発の場面で数多く活用されています。特に古い製品や廃番になった部品などで起こりうる「図面がない」「設計担当者がいない」といった課題を抱える製品を再製造する技術として取り入れられています。
既存製品の分解・解析にも取り入れられており、品質向上や製品の改良に利用されます。

リバースエンジニアリングの技術が実用化されている背景のひとつに、スキャン技術の進歩と解析技術の向上があります。
スキャン技術の進歩は目覚ましく、近年は従来と比べて数百倍の速度でスキャンが可能なCTスキャナーや3Dスキャナーなどが開発され市場投入されています。他にもハンドスキャナーで25μmの精度まで計測できる製品やエンジンブロックといった大型の複雑形状もスキャンできる製品が登場しています。スキャナーの機能向上は精度だけでなく、これまでスキャンが難しいとされてきた透過性が高いもの(透明な樹脂ケースや鏡面仕上げ部品など)もスキャニングできるようになっています。

解析においても、大容量データに対応したCAEソフトウェアの登場や、スキャンデータからCADモデルへの変換・比較・誤差解析などが行えるようになるなど様々な機能が向上したことによって、より鮮明な設計データの復元が可能になりました。
リバースエンジニアリング技術の活用例
廃番や生産中止となった部品の作成
廃番や生産中止となった部品の多くは、必要な情報もしくは図面自体がなくなっていることが往々にしてあります。しかし製造したい部品さえ残っていれば、リバースエンジニアリングで再生することが可能です。
実は、リバースエンジニアリング自体は昔から行われていた技術です。かつては図面のない部品をノギスやマイクロメーター等で測定し再製造していました。しかし、精度の低下や複雑な形状への対応が不可、熟練工の経験に依存するなどの課題がありました。また、すべての工程を手作業で行うため製品作成にかかる時間・コストも大きくなってしまいます。そういった「現物合わせ」で表現していたものをリバースエンジニアリングによってデータとして変換・保存できるようになったことで、技術の継承や保守対応力が向上しました。

既存製品の解析による品質向上
リバースエンジニアリングは、過去に作成した部品を再度分解し、解析することで、製品の品質向上やコスト削減を図ることが可能です。
具体例としては、既存製品の耐久性を解析し、製品の材質等を変更することによる軽量化やコストダウンです。さらに、自社製品に限らず他社製品を解析することで、自社製品との差別化ポイントの発見に役立てることも可能です。既製品を見直し、改良・改善を行うことにも「リバースエンジニアリング」は役立てられています。
※ただし、ここで述べた他社製品の解析については特許や著作権ライセンスの侵害に抵触することもあります。法的リスクを鑑みて実施する必要がある旨をあらかじめご理解ください。
方向性と展望
製造業における様々な技術において、近年大きく進歩したとされるリバースエンジニアリングですが、今後どんな技術進化が見込まれるのでしょうか。製品のさらなる精度向上はもちろんのこと、AIとの連動、リバースエンジニアリングと積層技術(アディティブマニュファクチャリング)の融合など、技術を掛け合わせた進化が期待されています。
複合素材や複雑形状へのさらなる対応
現状の課題でもあるスキャン時の反射や光沢への対策、黒色の物体をスキャンした際のデータの抜け、複合素材をスキャンした際の境界線の判別などの技術力が向上することで、リバースエンジニアリングは現場により浸透する技術となります。
スキャンする製品によっては、艶消しスプレーで反射を抑えたり、スキャナーの光の強さを調整したり、スキャン時の角度や距離を調整するなど、事前もしくは作業中に調整が必要な場面が多くあります。その手間を減らしていくために、リバースエンジニアリングに必要なスキャン機能の向上が求められます。
AIとの連動
リバースエンジニアリングの各工程でAIを連動させることにより、さらに効率化や使いやすさを高めることが期待できます。
例えば、3Dスキャン作業をロボットとAIの機械学習に連動させることで、環境に適した設定でスキャニング作業を実行できるようになったり、上手くスキャンできていない部分を認識させれば成功率を高めることにつながります。これによりスキャン漏れ防止や作業時間の短縮化といった改善につながります。
また、スキャン後のモデル化をAIを連動させることで、加工データと比較し、スキャン時のゆがみや寸法誤差を補正したり、上手くスキャンできていない部分の穴埋め・欠損部補完を行うことが可能です。AIとの連動はスキャンデータの品質を高め、作業時間が長くなりがちなモデル化の作業の負担を軽減し、寸法逸脱や試作回数を減らすなどの効果が期待できます。
リバースエンジニアリングと積層技術(アディティブマニュファクチャリング)の融合
リバースエンジニアリングの進化によって、従来、測定や設計が困難だった複雑形状の部品も、3Dスキャンで精密にデジタル化できるようになりました。
こうして得られたデータをもとに、金属積層造形(AM)の技術を活用すれば、従来加工が困難とされていた複雑形状の部品も高精度に再現することが可能になります。これにより、過去の設計資産を活かした再製造や、形状最適化による性能向上が実現できます。

まとめ
「リバースエンジニアリング」は、図面が存在しない製品から設計情報を再構築する技術として、現代の製造業で重要な役割を担っています。CTスキャンや3Dスキャナーなどのスキャン技術、CAEソフトによる解析技術の飛躍的な向上により、従来は困難だった高精度での測定・解析が可能となり、廃番部品の復活や既存製品の品質向上に大きく貢献しています。
今後は、複合素材や複雑形状への対応、AI連動による作業効率化と精度向上、そして積層技術との融合により、さらなる技術革新が期待されます。特に手作業による「現物合わせ」からデジタルデータ化への転換は、企業の技術継承や保守対応力を大幅に向上させ、製造業のDX化を推進する重要な技術と言えるでしょう。
製造現場の次なる設備投資として、ぜひ「リバースエンジニアリングソリューション」を検討してみてはいかがでしょうか。


