ものづくりの大変革!|ギガキャストとは?

早速ですが、「ギガキャスト」という言葉、ご存じでしょうか? 

脱炭素社会の実現に向け、世界的に動きが進む自動車産業のEV(電気自動車)シフト。この背景には、各国が取り組みを進める「カーボンニュートラル」政策や厳格化する排ガス規制があります。これによりガソリンや軽油といった化石燃料を使わず、バッテリーの電気でモーターを駆動するEV自動車への移行が進められています。

さらに、EV車は部品構成や製造プロセスも従来のガソリン車と大きく異なります。特に大型部品を一体で鋳造する「ギガキャスト」は、自動車のボディや車体フレームなどの新たな製造方法として注目されています。

そこで今回は、「ギガキャスト」について紹介します。

ギガキャストとは

「ギガキャスト」とは、これまで数百点を超える部品を溶接・接着して組み合わせ製造していた大型の構造部品を、一度の鋳造(ダイカスト)で製造する方法のことを指します。

ギガキャストは主に自動車のボディや車体フレームといった大きくて高強度を求められる部品に用いられる手法です。「ギガ(巨大な)」+「キャスト(鋳造)」という言葉が示すように、従来のダイカスト技術では不可能だった数メートル級の巨大アルミ部品を一発で成形できる点が最大の特徴です。 

このギガキャストが注目を集めている理由として、自動車産業のEVシフトが大きく影響しています。

EV車はこれまでの自動車と構造が大きく異なります。EV車はエンジンや排気系が不要になる一方、大型のバッテリーやモーターを効率的に配置する必要があり、そういった観点からも根本の設計を見直す策としてギガキャストの技術に関心が高まっています。 

ギガキャストによるメリット・デメリット

メリット

【工程削減】

従来の自動車製造では数百点を超える部品を溶接・接着で組み合わせていました。しかし「ギガキャスト」により大型部品を一度の鋳造工程で製造できるため、溶接や組み立てといった工程が不要となり、製造全体の工程を大幅に削減できます。

【軽量化・剛性向上】

溶接工程が削減されることにより、部品点数が削減され車体重量が抑えられます。また、一体成形でボディを作成することで剛性が増し、車体強度も向上します。 

【品質の安定化と人手不足の緩和】

組み立てや溶接の工程が削減することで、作業者ごとのばらつきや溶接不良などのリスクが低減し、製品の寸法精度や強度が安定します。さらに、世界的に深刻化している製造業の人手不足の観点においても、人員を削減した製造工程の構築が実現可能です。 

デメリット

【非常に高額な初期投資】 

「ギガキャスト」の製造に使用する大型ダイカストマシンは数十億円規模の投資が必要な機械となります。そのため、導入できる企業に限りがあるといったデメリットがあります。 

【不良発生のリスク】

数百点もの部品を1パーツとして製造する方法のため、不良が発生すると部品が丸ごと廃棄になり、歩留まり低下のリスクが非常に高まります。 

【修理・メンテナンス】

1パーツの場合、部分的な部品交換を行うことが困難になります。そのため、事故等による修理コストが高くなる懸念点があります。 

【使用する金型の課題】

大型部品を一度に鋳造するため、使用する金型の寿命や精度管理、冷却技術等に課題があります。

ギガキャストの国内外の動向

「ギガキャスト」の導入を、世界と比較した日本の状況を紹介します。 

「ギガキャスト」は自動車業界、とりわけEV車メーカーで導入が進んでおりますが、各国の大手メーカーが今後EV車にどのようにシフトしていくかが今後のカギとなります。

2016年のパリ協定発効以降、世界的に温室効果ガス削減への取り組みが加速しました。とりわけ排出量が多いとされる製造業、特に自動車業界の脱炭素化は重要なテーマとなり、このことがEVシフトの大きな要因となっています。ました。各国の自動車メーカーは温室効果ガス排出削減を目指し、GM(ゼネラルモータース)やフォード、ボルボ、ジャガー、メルセデスベンツ、フォルクスワーゲン、テスラ、BYDなど名だたる大手メーカーがガソリン車の廃止を方針として表明しました。 

EVシフトへの対応として、本格的にギガキャストを導入したのは米国のテスラ社です。この技術を用いて製造された自動車がテスラ社の「model Y」です。その後、中国のBYD社などもギガキャストを導入しており、その他のヨーロッパのメーカーでも試験導入が行われています。 

一方、国内に目を向けると、国産自動車メーカーもギガキャストの研究開発を進めているものの、量産段階には至っていません。これは日本の自動車産業が多品種少量生産を強みにしていることに起因しており、ギガキャストの強みである大量生産の特性が日本の市場構造に当てはまらないことが要因と考えられます。 

加えて、各国の自動車メーカーがEVシフトに舵を切っていく中、日本は出遅れたという見方がありました。国内でも「HV(ハイブリッド)車」、「PHEV(プラグインハイブリッド)車」が評価されていることもあり、EV車に一本化することは難しいという流れに落ち着いています。 

EVシフトの影響を受け、ギガキャスト技術への期待が高まっていますが、国内需要においてはまだまだ試験段階にあると考えられるでしょう。

まとめ

ギガキャストは、従来数百の部品を溶接・接着で組み立てていた大型構造部品を一度の鋳造で製造する革新的な技術です。EVシフトの流れの中で、車体設計の根本的見直しが求められる中、ギガキャストへの注目がさらに高まっています。 

ただし、ギガキャストは製造業に大変革をもたらす可能性を秘めている反面、慎重な導入検討が必要な段階にある先端技術です。各国の自動車市場の特性や技術的課題を考慮した上で、ギガキャストのさらなる効果的な活用方法の登場が期待されます。