半導体不足の影響と製造業のサプライチェーン対策

スマートフォン・パソコン・自動車・家電製品など、あらゆる電子機器に使用されている「半導体」。
「産業の米」とも呼ばれる現代社会の基幹部品です。
半導体をひと言で表すと『電気の流れをコントロールする電子部品』となり、主に情報を記憶する「メモリー半導体」と、計算・制御を行う「ロジック半導体」に分けられます。様々な電子機器に使用されている半導体ですが、特に自動車では1台につき数十個から数百個の半導体が搭載されており、もはや欠かせない存在です。
しかし、半導体は完成までに数ヶ月から1年以上を要し、かつ超微細・超精密な製造プロセスが求められる極めて高い技術力が必要です。そのような中、2020年には世界的な半導体不足が発生し、製造業の現場は大きな打撃を受けました。現在もなお、一部の分野では半導体の供給リスクが続いています。
そこで今回は、半導体不足に陥った原因と製造業界におけるサプライチェーン対策について紹介します。
Contents
半導体不足の原因
前述のとおり、2020年には世界中で半導体が不足する事態が発生しました。
当時の複合的な供給の制約と需要の急増によって引き起こされた世界的な半導体不足は、主な原因を「需要面」「供給面」「製造面」の3つの側面から考えることができます。
需要面での半導体不足
需要面における主な原因となったのは、世界的に蔓延した新型コロナウイルス(COVID-19)です。
新型コロナウイルスの蔓延によって各企業のワークスタイルに在宅勤務が浸透し、パソコンやタブレットの需要が激増しました。また、同時期には5G通信や電気自動車、IoT機器など新技術の成長・普及など、様々な製品のデジタル化や高機能化のトレンドによって半導体の需要が増加したことが、半導体不足を一層加速させることになりました。

供給面での半導体不足
供給面においても、同様に新型コロナウイルス(COVID-19)の蔓延が主な原因となっています。
新型コロナウイルスの蔓延によって従来の働き方ができなくなった製造現場の多くは工場の停止を余儀なくされました。これにより半導体生産における稼働率低下が起こり、半導体の供給が大きく遅れることになりました。さらに米中貿易摩擦による輸出規制といった地政学的リスクも、その後の半導体の供給に大きな制約を及ぼすことになりました。
製造面での半導体不足
製造面では、そもそも半導体を製造できる企業が限られているという構造自体に原因があるとされています。
その他にも、半導体の製造拠点が東アジア地域に集中していることで、リスクが局地化していることも大きな問題です。近年におけるサプライチェーンのグローバル化という観点においても、仮に製造拠点がある地域に問題が発生した場合、その後の製造に大きな影響を及ぼします。また、「ジャストインタイム」と呼ばれる、在庫を持たない効率重視の生産方式の考え方が半導体の供給不足の原因となっている背景もあります。
このように新型コロナウイルスによる需要の急増と供給の制約、そして地政学的リスクや製造の局地化等の問題が重なり、世界的な半導体不足が発生したと考えられます。
半導体不足による製造業への影響
自動車産業
自動車産業は長期的な半導体不足の影響で減産や生産停止を余儀なくされたため新車納品が半年~1年以上に延び、同時に中古車価格も高騰する事態となりました。
さらに、EV車や自動運転機能で使用される高性能な半導体が確保しづらくなったことで次世代車両の投入が遅れたため、自動車メーカー各社のその後の開発計画にも大きな影響を及ぼしました。

電子機器・家電産業
電子機器・家電産業では、家庭用ゲーム機やパソコン、スマートフォンなどの製品発売日の延期や品薄状態が続きました。また必要部品の高騰による製品本体価格の高騰、さらには製品仕様の変更や機能削減の商品構成変更に至ったケースもあります。

産業機械・工作機械
産業機械・工作機械などの生産財産業では顧客の設備投資などに大きな影響が出ました。部材が入らないため機械の納期が遅れ、生産能力の強化やDX化の計画が遅れるなどの影響が出ました。

製造業界のサプライチェーン対策
「サプライチェーン」とは、原材料の調達から生産・物流・販売を経て消費者の手に届くまでの一連の流れや仕組みのことです。
近年の半導体不足により各製造分野で生産量が低下し、製品の価格が上昇するなどモノづくり全体に大きな影響を及ぼしました。この経験から、今後同様の事態を回避するために、企業が自社のサプライチェーン構造を再確認するとともに、必要に応じて見直すことが求められます。
見直しに必要な項目としては、「調達先の分散や在庫管理の見直し」「長期的パートナーシップの構築」「国内・地域での生産回帰」「リスクマネジメントの強化」などが挙げられます。
調達先の分散
自然災害や地政学リスクの影響を最小化させるために、特定の地域やメーカーに依存せず、調達先を複数に分散させる動きが重要です。
この取り組みを「マルチソーシング」と呼びます。
マルチソーシングとは、業務全体を一括で外部に委託するのではなく、業務内容ごとに最適な専門分野に分割して発注する手法です。
この仕組みを実施することで、特定の地域やメーカーに不測の事態が起こった場合でも、他の調達先から供給を維持でき、安定したサプライチェーンを構築できます。

在庫管理の見直し
必要なものを必要な時に必要なだけ作り供給する「ジャストインタイム」の生産管理システムを見直し、在庫不足を防ぐことが理想的です。特に半導体のような製造リードタイムが長い部材は、在庫を多めに保有することが重要となります。
また、在庫管理の方法を需要変動に合わせて最適在庫が確保できるよう、AIによる予測分析やIoTを活用した生産管理システムを導入することで、無理のない在庫確保を実現することができます。
長期的パートナーシップの構築
今後も、新型コロナウイルス(COVID-19)のような予測不能な事象が発生すれば、半導体不足に陥る可能性は十分に考えられます。
そのような状況でも、供給を滞らせないために半導体メーカーや重要なサプライヤーと長期契約を結び、大口顧客として優先的に供給してもらえるポジションを確立することが大切です。また、共同開発・共同投資により供給リスクを分担し、資金援助でパートナーシップ関係を構築しておくことなど優先供給先として認知してもらうことも必要となります。

国内・地域での生産回路
これまで、多くの半導体の生産は中国・台湾に集中していました。
しかし昨今の地政学リスクやパンデミック等の影響を加味して、生産体制を国内に戻す「リショアリング」が注目されています。また、輸送リスク等の観点から近隣地域に生産拠点を移す、もしくは外部に委託する「ニアショアリング」の取り組みにより、サプライチェーンの見直しを図るといった動きも出てきています。
これらの取り組みにより、生産停止リスクや自社の在庫管理を基準とした製造の平準化を実現します。
リスクマネジメントの強化
これまで見通せなかった地政学リスクや自然災害リスクを想定した「BCP(事業継続計画)」を策定し、リスクに対する対策を事前に検討しておくことが重要です。
加えて、サプライチェーン全体を定期的に監査し、各プロセスでどのようなリスクが発生し得るのかを把握しておくことが、予期せぬ事態でのリスクマネジメントにつながります。
まとめ
新型コロナウイルス(COVID-19)をきっかけとした半導体不足の原因は、製造業界にとって深刻な危機であった反面、サプライチェーン対策を根本的に見つめ直す重要な転換点となりました。
今後は、調達先の分散、在庫管理の見直し、長期的なパートナーシップの構築、国内外での生産体制の再構築、リスクマネジメントの強化といった取り組みをバランスよく進めることが重要です。
これらの施策を継続的に実行することで、製造業は不確実な時代においても柔軟で持続可能なサプライチェーンを築き、安定したモノづくりと競争力の強化を実現していくことができるでしょう。